登場人物紹介
いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った
株式会社と個人事業に課せられる税金の違い
法人税と個人の所得税の基本的な違い
いち:「今回は、個人事業と株式会社に課せられる税金について比較をしてみましょう。
税金はややこしいので、分からなければどんどん質問をしてくださいね!」
かなえ:「理解ができるか不安がありますけど…何とかついていきます!」
いち:「まずは双方の税金についての基本的な話しをしましょう。
株式会社にかかる主な税金は、以下の三つです。
1 国税である、法人税(全国一律)
2 地方税である、法人事業税と法人住民税(自治体によって金額が違う場合あり)
一方、個人事業主に課される税金はこの三つです。」
1 所得税
2 事業税
3 住民税
累進課税と一定税率の違いとは?
いち:「ここでひとつポイントがあります。
株式会社と個人事業の税金は、税率の構造が異なるということです。
個人事業に課せられる所得税は、累進課税といって、5%から始まり最大45%まで、所得が増えれば増えるほど税率が上がる仕組みです。
半分も税金を持っていかれる!って愚痴を言っている人をたまに見ませんか?その方は課税所得が4千万円以上もある高額所得者の可能性が高いってことなんですよ。」
かなえ:「あ、たまにテレビやネットで見かけますね。」
いち:「はい。一方、法人税は、課税所得800万円以下は15%、それ以上は23.2%と、800万円を境に額によって一定の税率が適用されます。
800万円以下なら課税所得がいくらでも15%なんですよ。」
かなえ:「個人事業の所得税は5%スタートで、株式会社の法人税は15%スタート。つまり、売り上げが少ないうちは個人の方が税率が低いってことなんですね?」
いち:「はい、その通りです。
しかも株式会社には、赤字で利益が出ていなくても毎年最低7万円の法人住民税の均等割が課せられます。
なので、起業初期で売上が少ないうちは個人事業の方が税負担が軽いケースが多いんです。」
どのくらいの売り上げがあれば株式会社にした方がいいの?
かなえ:「なるほど。じゃあ、どのくらいの売り上げがあれば株式会社にした方がいいということになるんでしょうか?」
いち:「では下記の速算表をみながら、個人事業者の所得税と法人税の比較をしていきましょう。
黄色い印をつけたところをみると、課税所得330万円から税率が逆転しているのが分かるでしょう?」

※右記は税率・控除額

かなえ:「はい、個人事業は税率20%で、株式会社は15%なので、課税所得330万円で税率が逆転しています。
じゃあ…、課税所得が330万円以上あったら株式会社にした方がいいということになるんでしょうか?
でも…そんなに単純なんですか?」
いち:「鋭いですね。
ここが間違いやすいところで、税金の構造はそこまでシンプルではないんです。
では実際に計算をしてみましょう。」
課税所得330万円の税金比較(個人事業 vs 株式会社)
個人事業者
【所得税】課税所得330万円 × 税率20% − 控除額427,500円 → 約23万円
【住民税】約33万円
【事業税】約2万円
合計 約58万円
株式会社
【法人税】課税所得330万円 × 税率15% → 約49.5万円
【法人住民税】約12万円
【法人事業税】約12万円
合計 約73万円
かなえ:「控除があるから、課税所得330万円では、個人事業の方がまだまだ安いんですね。」
いち:「はい。この例のように、330万円程の課税所得では、まだまだ個人事業の方が安くなることが多いんです。
次は、課税所得が600万円のケースです。」
課税所得600万円の税金比較(個人事業 vs 株式会社)
個人事業
【所得税】 330万円 × 税率20% − 控除額427,500円 → 約57.25万円
【住民税】 60万円
【事業税】 30万円
合計 約147.25万円
株式会社
【法人税】 600万円 × 税率15%(年800万円以下の法人のため)→ 90万円
【法人住民税】 約13万円(均等割含む)
【法人事業税】 30万円
合計 約133万円
法人化の税負担の目安とは?
かなえ:「課税所得が600万円だと個人事業よりも株式会社の方が税金が安くなりましたね!」
いち:「はい、課税取得が600万円を超えてくると、株式会社にしたことによる節税効果がでてくるんですよ。
税制的なメリットが明確になってきますので、個人事業主が法人化を考える一つの目安になると思います。」
かなえ:「なるほど、でも課税所得600万円が株式会社化の目安だとかなりの売り上げを出さないと…
株式会社設立を選ぶのは私にはちょっとハードルが高いのかもしれませんね…」
役員報酬の仕組みと節税効果
役員報酬を経費にできるメリット
いち:「いえいえ、まだ結論を出すのは早いです。
会社化するにあたっては、他にも考慮すべきポイントがあります。
その中の一つとして、役員報酬(経営者の給与)を経費にできる、というものがあります。」
かなえ:「経費にできるメリットは、経費が増えることで会社の利益が減ると利益に掛かってくる税金が減る、ということでしたよね。
役員報酬を経費にすることで、課税所得を減らせるということなんですね。」
いち:「ただし、役員報酬を経費にするには、一か月以下の一定期間ごとに同額を支給する、いわゆる定期同額給与じゃないと認められない、などの一定の厳しいルールがありますのでルールの理解が必要です。
問題がなければ、株式会社にすると役員報酬を損金(経費)にできるので、課税所得を相当額抑えることができます。」
ひとり会社設立編1~4のまとめ
かなえ:「税金関係はつかめた気がします。
最後に…、他に個人事業か会社かを決める上で考えたほうがいいことはありますか?」
いち:「個人事業か株式会社設立化を考える上でとても大切なのは、他人と自分の事業は違うということです。
今までコスト面を語ってきたのに矛盾をするようですが、コストだけで一様に考えられるものではありません。
自分の事業の方向性や事業の規模、将来の事や信用面も含めて、自分自身にあった判断をすることがとても大切になってくるんです。」
かなえ:「今までお話をうかがってきて、メリットやデメリット、税金の理解が、個人事業か株式会社設立かを考える上で必要不可欠なのはよく分かりました。
でも確かに、結局はどちらが自分のビジネスにあっているか、ですよね。」
いち:「早期の売り上げに不安があるようなら個人事業でスタートし、取引先が増えて、ある程度継続的な売り上げが見込めるようになったら、会社化する“法人成り”を検討するのもありですし、
早期の売上が見込めたり、早期の雇用を考えているのであれば、株式会社で始めて良い人材の応募や取引先を増やしやすい状況をつくるのも一つの方法だと思います。」
かなえ:「私は将来的な事業拡大を見込んでいますし、企業相手のお仕事も増やしていきたい気持ちがあります。
自ずと結論は出てくるのかもしれませんね…」
いち:「法人成りと違って、その逆の株式会社を個人事業に変更するのは容易ではありませんのでよく検討して結論を出してくださいね!」
かなえ:「ありがとうございます。
今までのお話で何が自分にとってのベストなのかをきちんと考えられるようになった気がします。
決まったらまた相談させてください!」