退職時の手続き -はじめての雇用編5-

登場人物紹介

いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢を無事かなえたWEBデザイン会社経営の女性 ー会社設立編はこちら

step6. 社員の退職時に必要な手続きと会社の対応

いち:「雇用編の最後に、従業員の退職時に必要な手続きについて説明します。
まずは一連の流れを理解しておきましょう。」

退職までの一連の流れ

step.1 社員から退職の申し出があったときの対応

かなえ:「せっかく育った社員に退職をしたいといわれたら慌ててしまいそうですね。
突然言われたらどう対応したらいいのか分からないので動揺してしまいそうです。」

いち:「その時になって慌てないように対応を整理しておきましょう。
あらかじめ以下のような手順を用意しておいたらいかがでしょうか。」

社員から退職の申し出があったときにするべきこと

1 退職の意思が曖昧な表現、例えば辞めようか悩んでいる等である場合は、意思の明確化。

2 退職理由の中にパワハラ・セクハラ・労働条件違反が含まれている場合は、内部調査・記録保存など適切な対応をとる。
※放置をすると労基署への申告や訴訟に発展するケースあり

3 自社の就業規則・雇用契約書に定められた退職の手続き・予告期間を確認。

4 本人の退職希望日と会社の就業規則・業務の都合をすり合わせ、最終出勤日を調整。

5 残っている年次有給休暇の消化希望を確認。
※労基法第39条により、原則としてこれを拒むことは不可です

step.2 退職までに、従業員が行うべき手続きと、返却物の確認

いち:「退職届を受理したら、従業員にやってもらうことを本人に確認しておきましょう。
これらが、スムーズに行われないと、次の会社側の手続きに進めませんので、時には催促をする必要があります。」

やること備考
退職届の提出口頭ではなく書面で提出が基本
自社のテンプレートを作っていてもよい
引き継ぎ業務の実施業務マニュアルの作成など
貸与物の返却PC・制服・社員証など
離職票の受け取り希望の確認失業手当受給に必要
健康保険証の返却本人・扶養者分も含め返却

step.3 社員の退職後、会社が行うべきこと

いち:「次に、会社がやらなければならないことを確認しておきましょう。」

やること概要
退職届の受理と保管社内文書として保存
※労基法改正に基づき2024年4月施行で保管期間が5年に延長(中小企業は当面3年)
退職日までの給与計算未払い賃金、有給休暇の清算
退職金の支払い処理・税務処理退職金制度がある場合のみ
支給があれば、退職所得控除、給与とは別の分離課税の処理が必要
健康保険証の回収扶養家族分も忘れずに。
退職日に健康保険証を回収し、退職日の翌日から5日以内に資格喪失届を年金事務所に提出します
※健康保険の任意継続は可能
貸与物の確認業務で作成した資料等を含み返却漏れ・破損の確認
各種書類の交付退職証明書、源泉徴収票、離職票など

step.4 退職日に会社から社員に各種書類を渡す

いち:「退職日に会社から社員に渡す各種書類を整理しておきます。」

書類名会社の義務か任意か社員の提出先内容と目的
源泉徴収票義務
※所得税法第226条
税務署、転職先、確定申告退職年の給与や控除額を記載。退職後1ヶ月以内に交付義務。
離職票(Ⅰ・Ⅱ)本人希望時は義務ハローワーク失業保険手続きに必要なので交付が一般的。
会社がハローワークに離職証明書を提出。
退職証明書本人請求があれば義務※労働基準法第22条転職先や各種手続き用在職期間や職種、賃金などを記載。
健康保険資格喪失証明書任意だが実務上重要市区町村、転職先社会保険の資格喪失日を記載。
国保切替や転職先で必要な場合あり。
基礎年金番号通知書またはマイナンバー本人保管日本年金機構等基礎年金番号を確認するための書類。
※2022年以降年金手帳廃止
雇用保険被保険者番号通知書(控え)任意ハローワーク失業給付や再就職時に必要な被保険者番号を確認できる。
最終賃金明細任意だが実務上必要になる場合あり本人用最終月の給与や退職金などの内訳。
金銭トラブル防止に重要。

いち:「一般的な退職証明書は以下のように作成します。」

退職証明書の作成例

退職証明書
氏名:〇〇〇〇
生年月日:○/○/○
在職期間:○/○/○ ~ ○/○/○
職種(業務の種類):○○職
役職(地位):〇〇〇〇
最終賃金:月額 ○○円
退職日:○/○/○
退職理由:〇〇〇〇

上記のとおり、退職に関する証明をいたします。

○○年○月○日
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇
住所:〇〇〇〇
電話番号:〇〇〇〇

step.5 退職後、会社が行政機関へ届け出

いち:「従業員の退職後には行政機関への届け出が必要になります。
期限があるので、速やかに行いましょう!」

書類名提出先期限備考
雇用保険 被保険者資格喪失届ハローワーク
※電子申請対応あり
退職日の翌日から10日以内退職したことを届け出る
離職証明書(離職票)ハローワーク希望があれば作成・交付本人が失業手当を申請する際に必要
健康保険・厚生年金保険 資格喪失届日本年金機構退職日の翌日から5日以内年金事務所へ健康保険証を返却する

はじめての雇用編まとめ|雇用を学んでわかった“人を雇う”ことの責任と覚悟

いち:「以上で、5回に渡ってお話しをしてきた雇用編は終わりです。
一連の説明を聞いてきて、当初の雇用を迷っていた気持ちに変化はありましたか?」

かなえ:「初めは“人を雇う”って、仕事が増えてきたら自然に行うものなのかな、と軽く考えていたんです。
でも、いちさんと一緒に学んでいくうちに…考えていた以上に責任が重いことなんだって、よく分かりました。」

いち:「人を雇うということは、単に労働力を確保するというだけじゃなくて、その人の生活やキャリアに直接関わることですから大きな責任が伴います。
それに、会社の行く末を左右する重大なターニングポイントになることも考えられます。
簡単には考えられませんよね、でもそれだけやりがいもある重要な選択なんです。」

かなえ:「はい。給与や社会保険の手続き以外にも、育成や評価制度もちゃんと考えないといけないんですね。
本当に、会社を作る以上の責任感が要るんだなと思いました。」

いち:「はい。生活に十分な給与の支払い、育成、正当な人事評価の仕組み作り、それらを整える意味は、けっして従業員のためだけでありません。
中長期的には会社の成長や利益にもつながるんです。」

かなえ:「雇用は経営者にとっても、学びと成長のチャンスですね。
ちょっと気が引き締まってきました。
改めて雇用を前向きに考えてみようと思います!」

いち:「かなえさんのように責任の重さを理解した上で、前向きに雇用を考える経営者は、必ず良い会社をつくっていけますから大丈夫ですよ!
どうか会社に新たな未来を作っていってください。」


はじめての雇用編終わり。

はじめての雇用編番外編はこちら

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