登場人物紹介
いち
行政書士事務所所長の行政書士
ゆうき
大学生。会社設立編・はじめての雇用編の相談者かなえの弟。
事業を始めたいと漠然と考えている。
※文中の赤文字は専門用語です
やりたい事業ってどうやって決めたらいいの?
自分の中を掘り下げる「3つの視点」
ゆうき:「いちさん、僕も姉と同じように将来起業をしたいんです。
でも、正直まだ何をしたいかはっきりしていなくて…何から考えたらいいんでしょうか?
そんな漠然とした気持ちで起業を考えたらいけないんでしょうけど…」
いち:「いえいえ、起業したいという気持ちがあるだけでも十分スタートラインに立っていますよ。
では、自分の中のこの三つを掘り下げてみましょうか。」
1.好きなこと
2.得意なこと
3.関心があること
ゆうき:「そうですね,パソコン関係はわりと好きですし、得意かも。
なので当然関心もあります。
でも、特別こだわりがあるわけでもなくて…何でもいいから前向きに働ける仕事がしたい、という感じです。」
いち:「今はなかったとしても、漠然としていたとしてもいいんです。
ただ、どんな時に楽しいと思えるか、逆に何にストレスを感じるか、日常の中からヒントを探すことが大切ですね。
いつもアンテナを立てていれば好きなことや得意なことはきっと増えていきますしね。
それに、あえて苦手なことにも目を向けてみると、思わぬビジネスのヒントが見つかることもありますよ。
自分が苦手なことは他人も苦手な可能性がありますし、それらの層に向けたビジネスも考えられます。」
事業にする前に“目的”を言葉にしよう
ゆうき:「なるほど。
では、興味を持てそうなものが出てきとして、それを事業にするにはどうしたらいいんですか?」
いち:「まずは、“なぜそれをやりたいと思ったのか?(目的)”を言語化してみましょう。
事業は順調にいかない事もありますけど、理由がはっきりしていれば、困難な場面でも軸を見失わずに進めます。
それに、何をしたいのかが他人にも伝わりやすくもなりますよね。
これは将来起業をしたときに、数多くある事業者の中から自身の事業が選ばれる大きな要素になりますよ。」
ゆうき:「確かに…有名になっている企業は大体事業の目的が明確ですし、何をやりたいかが分かりやすい企業は印象に残ります。
つい選んでしまうことも多いですね。」
ビジネスとして成立するか?の5つの視点
いち:「次に、そのアイデアが“ビジネスとして成立するか?”を検証します。
具体的には以下の5つです。
1.市場の規模
2.市場のニーズ
3.競合相手(自社を取り巻く状況)
4.価格帯
5.顧客の属性(ターゲット層)
これは考えているものや、サービスに“商品力があるか”を客観的に判断する材料になります。
自分だけが良いと思っていても、他に求めている人がいなければビジネスとして成立するのは難しいですからね。」
ゆうき:「つまりまとめると、自分のやりたいことと、商品力があるかが重なる部分を探すのが大事なんですね。」
いち:「まさにその通りです!
1.自分がやりたいこと
2.自分ができること(または習得できる見込みがあること)
3.商品力があるか(世の中のニーズがあるか)
理想をいえば、この3つが重なる場所に、ゆうき君のビジネスのタネがあるんです。」
ゆうき:「なるほど…でも、うまく見つかるでしょうか。
できれば失敗はしたくないし、なるべく効率のよいビジネスがいいです。
まだ今は大学生ですし、あまり資金を用意できそうにありませんので…」
いち:「創業時は、初期投資が小さいビジネスモデルを意識するといいですよ。
仮に、PCを使った起業をするのであれば、サブスクリプションや、ネット上で完結する情報提供や教育系の事業などが、リソースの限られた起業家に向いています。」
ゆうき:「何か事例ってありますか?あまりピンとこないので…」
いち:「たとえば、SaaS(Software as a Service)を提供している企業の商品が参考になります。
アップデートで内容を時々の状況で変えられたり、内容を顧客に合わせられたりとカスタマイズ性が高く、継続収入が見込めるモデルが多くあります。
有名なものではこんなサービスがありますよ!
ビジネス文書(Microsoft 365・Google Workspaceなど)
デザイン制作(Canvaなど)
ファイル共有(Dropboxなど)
クラウド会計(マネーフォワードクラウドなど)
AI(ChatGPTなど)
まだ時間の余裕のあるうちに、実際にサービスを使ってみて、“自分だったらどう改善するか?”という視点を持つこともきっといい訓練になりますよ。」
まとめ|実際に事業を始めた際の注意点も
ゆうき:「なるほど…、自分なりにまとめてみるとこんな感じでしょうか。
今やりたいことがない
↓
自分の内面を掘り下げてみる
↓
行動して興味のあることを見つける
↓
世の中のニーズと接点があるか検証
いち:「よくまとまっていますね、まさにその通りです。」
ゆうき:「書いていて思いましたけど…、一朝一夕ではいかなそうですね。
あせらずにひとつひとつやっていこうと思います。」
いち:「はい、焦らずに向き合うことが第一歩です。
SOFTBANKの孫正義さんは毎日何個ものアイデアを書きだす、ということをル-ティーンにしていたようですよ。
ゆうき君は人が困っていることや困っていそうなことを毎日10個書き出す、なんてことをやってみてもいいかもしれませんね。」
日本で事業を始めるときの“信頼”と“ルール”
ゆうき:「うん…なんとなく方向性が見えてきた気がします!
あと、実際に事業を始めるとなったら、他に気をつけることってありますか?」
いち:「はい、大事なことがあります。
日本独自の商慣習やコンプライアンスの意識も忘れずに持っておいてください。」
ゆうき:「商慣習…ってたとえばどんなことですか?」
いち:「たとえば、日本では“信頼できる会社かどうか”がとても重視されます。
だからこそ、サービスの丁寧さ、対応の早さ、品質の安定性がとても大切なんです。
口コミや紹介で仕事が広がることも多いので、一つ一つの取引を丁寧に積み上げていく姿勢が求められますよ。」
ゆうき:「なるほど…僕のおじいさんの時代から言われている、いわゆる“信用第一”ってやつですね。」
いち:「その通り。
それに最近は法令遵守、つまりコンプライアンスへの関心も高まっています。
また、業種によっては、国の許認可がないと始められないこともあるので、事前に必要な手続きやルールを確認しておくこともとても大切です。」
ゆうき:「うん、信用第一やコンプライアンスは、日本に限らないことかもしれませんね。
海外を視野に入れた場合にもこの姿勢は役に立ちそうです。」
いち:「今回のお話しはこれでおしまいです。
次回はもっと現実的な内容をお話ししましょうか。
事業を始める際に誰もが悩むであろう、開業資金についてお話をします。」
ゆうき:「たしかに!僕もそれが一番気になっていました。」