廃業以外の選択肢ってある?・事業承継の話

登場人物紹介
 
かなえさん
WEBデザイン事務所の経営者。
両親がふたば行政書士事務所に相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合い会社設立を相談。
起業の夢をかなえました。

いち
ふたば行政書士事務所所長の行政書士。

※文中の赤字は用語です

事業承継

かなえ

祖父も会社を経営しているんですが、高齢なのでそろそろ会社をたたむことを考えているみたいなんです。
せっかくの黒字経営なのに何だかもったいないんですよね…

いち

確かにもったいないお話しですね。
廃業以外の選択肢もいくつかありますよ。

かなえ:「それは気になりますね…」

いち:「お祖父さんはなんの事業をなさっているのですか?」

かなえ:「燃料関係です。
プロパンガスやガソリンスタンドなどの事業をしています。
地域では規模が大きくてそこそこ有名なんですよ!」

いち:「生活インフラの会社が無くなってしまったら困る人が多くいそうですね。
従業員の方の生活もありますしぜひ存続してほしいものです。」

かなえ:「私もそう思っているんですよ。」

いち:「近年黒字経営なのに高齢を理由にした廃業が増えていて社会的な問題になっているんです。
そのお話から始めさせてさせてもらっていいですか?」

かなえ:「私の家族と同じようなケースってよくあるんですね…とても興味があります。」

いち:「廃業が増えるということは、働く場所がなくなるということになります。
これは現役世代がその土地から離れていなくなる、という事に繋がるでしょう?」

かなえ:「そうですね…働かないと生活ができませんし、近くに仕事が無ければ仕事がある都会に出る人がますます増えるんじゃないでしょうか。」

いち:「人口戦略会議が2024年に消滅可能性自治体を発表しました。
※2014年に日本創生会議が消滅可能性都市を発表したのが最初

消滅可能性自治体とは、2050年までに20-39歳の女性の数が五割以上減少し、消滅をする可能性がある自治体を指摘したものです。
出産を20代~30代でする女性は多いのでこの年代の女性が住まない自治体は人口が大きく減少して自治体経営が消滅しかねないことに警鐘を鳴らしているわけです。
全国にある自治体の約4割である744の自治体が消滅指定性自治体に該当しています。

雇用があることはその地域に住むための重要な要素ですよね。
廃業は当然個人の自由ですけれども、数が多くなってくると社会問題化することになります。」

かなえ:「近年事業を継ぐ人はそんなに少なくなっているんでしょうか?」

いち:「後継者がいないことを理由にした廃業は多くて、そのなかでは利益は出ているのに後継者がいないのでやむをえず廃業を選んだという企業も少なくありません。

しかし国や自治体はこの状況を手をこまねいて静観しているわけではなくて、近年は事業承継の推奨に力を入れています。」

かなえ:「事業承継ですか…
実は祖父から廃業の話が出る前に継ぐ気はないか聞かれたんですよ。
でもまだ経営を初めて間もないので断ってしまいました。」

いち:「当然家族は仕事を持っているでしょうから継ぐことが難しい場合も多いです。
これからお話ししますが、数々の取り組みは少しずつ実ってきているんですよ。」

後継者不在率

いち:「後継者がいない企業の割合って企業全体の何%くらいあると思いますか?」

かなえ:「見当もつきません…30%くらいですか?」

いち:「帝国データバンクが後継者不在率として発表しているのですが、後継者がいない企業の割合は観測以来2021年までずっと60%を超えていました。
しかし2022年に初めて60%を割ったんです。」

かなえ:「そんなに多いんですね。」

事業承継の種類

かなえ:「親族に継がせること以外の方法があるんですよね。
自分自身の事業のこれからを考えてみても興味深いお話です。
ぜひ聞かせていただけますか?」

いち:「では事業承継で選ばれる4つの方法をお話ししましょう。
それぞれにメリットやデメリットがあります。」

同族承継

経営者の親族が継ぐ。

メリット従業員が受け入れやすい。
キーポイント・デメリット継いでくれる親族がいるかどうか。
経営者としての適性の有無。

内部昇格

役員などの従業員が引き継ぐ。

メリット事業内容を熟知している社員を後継にすることができる。
取引先の信用が継続。
キーポイント・デメリット経営者適性がある従業員がいるかどうか。
責任がある立場を継いでくれるかどうか。
株式会社の場合は株式の購入資金が用意できるかどうか。

外部招聘

外部から経営者を招く。

メリット専門性の高い人をピンポイントで選べる。
しがらみに囚われることのない経営が期待できる。
キーポイント・デメリット引き受けてもらえるかどうか。
環境が変わって経営力が行かせるかどうか。
従業員や親族の反発。

M&A(Mergers&Acquisitions)

複数の会社を合併、またはひとつの会社が他社を吸収する。

メリット事業承継する相手を幅広く選ぶことができるため経営改善が見込める。
個人保証から解放される。
コストの削減。
キーポイント・デメリット現従業員の反発。
条件に合う承継先の申し出があるか。
相手が見つかるまで数年かかる場合もある。

かなえ:「M&Aって大きな企業だけが行うものだと思っていましたけどもっと一般的なんですね。」

いち:「大きな企業のM&Aは報道をされて目立ちますからそんな印象がありますね。
M&Aが一般的に認知されたきっかけは、当時堀江貴文さんが球団や放送局を買収しようとして大々的に報道されたことだったように思います。
M&Aをして企業価値を高めて高く売るファンドがあることも有名になりましたね。
当時は敵対的買収という言葉をマスコミが好んで使っていてM&Aのイメージはずいぶんと悪いところから始まったように思います。
最近は認知されてきてずいぶんとイメージが変わりました。」

事業承継の実態

いち:「事業承継で新たに経営者になった人が何を経緯として就任したか、その推移をまとめたグラフがあります。」

帝国データバンク全国企業 後継者不在率動向調査(2022)より

いち:「M&Aが最も伸びています。
調査開始以来初の20%越えとなっていますね。
今後ますます伸びていくのでしょう。

また同族承継の割合減少が顕著です。
2022年に同族承継と内部昇格の割合がほぼ並んでいるのが時代の流れを感じて面白いです。
グラフの後継者不在率動向調査には、2011年の調査以降、後継者候補は子供の割合が最も高い状態が続いてきたものの、初めて非同族が首位となったと書かれています。」

かなえ:「会社は子供が経営を引き継ぐというイメージがありましたけど、継がない人が増えているんですね…
子供が事業を引き継ぐという考えは過去のものになりつつあるってことですか。
全体的に2020年に流れが加速していますけどCOVID‑19の影響でしょうか」

いち:「そう考えられていますね。
コロナ禍では自社の将来の不安と向き合った企業が多くあったという社会的背景があります。
必要に迫られて国や民間ともに事業承継メニューが整えられていき、それが企業に選択肢として受け入れられていった結果なのでしょう。

私見ですが、社会環境が悪い状況で親族に譲って苦労させるよりも廃業を選択したり、業績回復の可能性が高い他者に譲った方がいいという考えに至った経営者も多かったのではないかと想像します。」

最後に

かなえ:「親族にこだわらずより会社を発展させてくれる人や企業に譲りたいと考えるのは当然かもしれません、株主や従業員もいる場合は特に。」

いち:「設備の処分費用や原状回復の費用、従業員の失職、取引先企業に支障を与える可能性等ざっと挙げてみただけでも廃業のデメリットは大きいです。
事業承継がうまくいけばこれらの心配はなくなりますし、手放した後の収入を確保できる可能性もあります。
譲渡先企業や創業希望者にとっても初期費用が減るわけですから双方にとってWinWinですよね。」

かなえ:「祖父の会社は財務状況がいいので引き受けてくれるところがありそうです。
提案してみます。」

いち:「進展があったら是非教えてくださいね!」