登場人物紹介
いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った
発起人と会社設立方法を決める
いち:「今回からは、前回お見せした株式会社設立チャートに則って、会社設立の具体的な手順を説明していきます。」
かなえ:「これからは私の会社が設立するためのお話になるんですね、ワクワクしてきます。」
いち:「まず初めに、株式会社設立の発起人は誰なのか、発起設立と募集設立のどちらにするのか、この二つを明確にしておきましょう。」
発起人とは何か?
発起人とは、会社の設立を思い立ち、その会社に出資をする人です。
また発起人は複数になるケースもあります
発起設立と募集設立の違いとは?
発起設立の特徴
発起人の出資のみで会社を設立する場合は発起設立になります。
発起人が複数いる場合でも、発起人が株式を全て引き受けていれば発起設立です。
募集設立の特徴
発起人が一部の株式を引き受けて、残りを外部から募集する場合は募集設立です。
発起設立と募集設立を決めた後に必要な書類
かなえ:「発起人は私一人で、他に出資を募るつもりはありませんから…、私のケースは発起設立、ということでいいんでしょうか。」
いち:「はい、かなえさんの場合は、発起設立になります。
発起人が確定したら、発起設立の場合は、発起人事項決定書を作成します。
この書面は、会社設立の登記申請の際に必要になる重要なものですので必ず作成しておきましょう!
発起人事項決定書は下記のように書きます。
この次にお話しする会社の基本事項を決めてからの方がつくりやすいと思いますよ!」

会社の基本事項とは何か?
いち:「会社の基本事項というのは、会社の根幹となる決め事のことです。
決まっていなければ、登記申請も、各種届け出も、金融機関の口座の開設もできないとても重要なものなんですよ。
設立後の変更には、手間やコストが掛かりますので、最初にしっかりと決めておきましょう!」
会社の基本事項
1 商号(会社名)
2 会社の住所
3 会社の目的
4 役員
5 資本金の額
6 株式の数
7 事業年度
いち:「このなかで、すでに決まっていることはありますか?」
かなえ:「はい。いくつか決めていたことがあります。
会社名:creative/K株式会社
住所:自宅を改装して一部を会社にする予定
メイン事業:ウェブサイト作成などのウェブデザイン
役員:自分のみ
資本金:300万円
株式の数と、事業年度は、今まで考えたこともありませんでした。
決めているところもちょっと自信がないので、お話を聞いて改めて考えてみたいです。」
いち:「ほとんど決まっているんですね。
では確認も兼ねて、順番に説明していきましょう!」
商号(会社名)|決め方と注意点
いち:「商号には、法律上の制約がいくつかあります。
“同一商号の登記禁止”というルールがあって、同じ住所に同じ名前の会社は登記ができません。
また、“著名表示冒用行為の禁止”という著名な企業やブランドの名前は登録することはできないルールもあります。
そして、禁止されてはいませんが、同業他社と似た商号も避けたほうがいいでしょう。
過去に訴訟をされて敗訴した例が複数あります。」
かなえ:「creative/K株式会社は大丈夫かな…」
いち:「せっかく考えていたのにとても言いにくいのですが、商号の記号には一定のルールがあります。
かなえ:「ダメなんですね…残念。」
いち:「creative/K株式会社を商号として登録ができなくても、ロゴや看板などに使うことは可能です。
必要に応じて使い分けたらいかがでしょうか?」
かなえ:「そうですね、考えてみます。
商号を決める際には、思い付きではなく、それが使用できるかどうかをあらかじめ調べておく必要があるんですね。」
いち:「明確に違法な商号は、登記の段階で指摘がある可能性が高いです。
しかし先に述べた、訴訟で解決された例があるように全てが指摘されるわけではありません。
なので商号は問題なく使える商号なのかを命名者が調べる必要があって、これを商号調査といいます。
商号調査には、一般財団法人民事法務協会の登記情報提供サービスなどが便利なので、命名の際には利用してみたらいかがでしょうか?」
会社の目的|書き方とポイント
会社の目的記載例
1.ウェブサイトの企画、デザイン、制作及び運営。
2.インターネットを利用した広告・マーケティング事業
3.各種セミナー、講座、研修の企画及び開催
4.前各号に附帯する一切の事業
いち:「会社の目的は、例のように番号を振って箇条書きにする形で記載します。
記載されていないことは原則事業として行うことができませんので、将来やってみたい事業があれば、すぐにその事業を始める予定がなくても、あらかじめ記載しておくことをおすすめします。
たとえば、広告やマーケティング事業を将来やりたい場合は、例のようにインターネットを利用した広告・マーケティング事業と記載。
ウェブサイトの作り方を教えるセミナーを開催するのならば、各種セミナー、講座、研修の企画及び開催などと記載しておきます。
そして、振った番号の最後に前各号に附帯する一切の事業と記載しておけば、列記した目的外の関連事業を行うことができるようになりますので、必ず記載をしておきましょう!」
かなえ:「もし、目的外の事業を行ったら何かしらの罰則があるんですか?」
いち:「罰則はありませんが、目的外の事業を行っていると、融資や補助金の申請時などに支障が出る可能性等の間接的な影響があることがあります。
会社の目的は会社設立後に公表されることになるので、会社の信頼という視点からしてもあまりよいことではありませんよね。」
資本金の額|決め方と注意点
いち:「資本金とは事業の運営資金であり、資本金の額は会社の資金力を示す指標でもあるので、対外的な信用にもつながります。
会社法ができて、資本金が1円でも株式会社を設立できるようになりましたが、現実的には難しい面があります。
事業の利益がすぐに出るとは限りませんし、宣伝費などの経費もばかにできません。
それに、一定額の資本金がないと取引をしない会社もあったり、融資の際に資本金の額を査定の要素にする金融機関もあります。
事業にもよりますが、百万円以上の額は用意することを検討してみるといいでしょう。」
かなえ:「私は300万円を用意しましたが…、これで足りるでしょうか?」
いち:「うーん、事業内容にもよりますが、事業計画を練る際に予算と経費を試算してみたら自分自身の会社に適した資本金額が算出できるはずです。
資本金を決める前に試算をすることをおすすめします。」
かなえ:「確かにそうですね…!あとで試算をしてみます。」
いち:「余談なんですが、日本で一番資本金が多いの社は日本郵政で、その額は3,500,000百万円なんだそうです。
重要なインフラ事業ですから、このくらいが適正金額なのかもしれませんけれど桁違いですよね。」
かなえ:「3兆5,000億円…想像もできません!
事業によって適正な資本金額が違うのがよく分かります。」
株式の数
いち:「株式の数は資本金から考えます。
計算式はシンプルで、以下のようになります。」
資本金の額=株式の金額×発行株式数
かなえ:「株式の数は資本金が元になっているんですね。
株式の金額を決めるのには何かルールがあるんでしょうか?」
いち:「特にルールはなく、金額は経営者が自由に決められます。
たとえば、資本金が300万円でしたら、1株あたり1000円で3000株の発行、特にこだわりがなければこんな決め方でも問題ありませんよ。」
かなえ:「なるほど。株の金額は大きくても小さくてもいいんですか?
一株300万円にして1株発行とか、一株1円にして30万株発行とか…」
いち:「可能ですが、それらはおすすめできません。
なぜなら、一株300万円では、株式譲渡ができなくなったり、株式併合(2株を1株にする)ができない等の問題がでてきてしまいます。
また、1円にしてしまうと株式分割(2つに株を分ける)ができなくなる等の問題が生じるため、経営の柔軟性がなくなるからです。
それに他人からみたらちょっと変わった会社との印象を持たれてしまうリスクもありますね。」
発行可能株式総数
いち:「株式会社は、状況に応じて発行株式の数を増やして資本金を増額すること(増資)が可能です。
その発行株式数の上限が、発行可能株式総数になります。
ちなみに、一般的な増資をする理由は、資金不足、事業拡大のため、経営上の判断などが多いです。」
かなえ:「なぜ上限が必要なんでしょうか?」
いち:「株式の発行に上限を設ける理由は、取締役が恣意的に株式を発行することを防ぐためのブレーキになるからです。
仮に、取締役が自由に株を発行できると既存の株主の持ち分が減ってしまいます。
今まで大きな割合を持っていた株主が、突然少数派になってしまう可能性がでてきてしまうんですよ。」
かなえ:「ということは、発行可能株式総数が設けられているのは、株主保護が目的なんですか。」
いち:「はい。株主保護がその理由なので、発行可能株式総数を超えて株式を発行するには、株主総会を開催して通常より重い決定方法である特別決議を経る必要があるんです。
また、かなえさんのような株主と取締役が同一人物で取締役会を設置していない会社であっても、形式的に議事録作成などは作らなければなりませんので、ちょっと面倒ですよね。
なので面倒を避けるためにも、将来の資金調達や、今後株主が増えた場合の持株比率の調整に柔軟に対応できるよう、設立時には発行可能株式総数を多めに設定しておくことをおすすめします。」
かなえ:「持ち株比率の調整って聞かない言葉ですね。」
いち:「たとえば、新しい人に株を渡すと、今まで社長が100%決められたことも、その人と話し合って決めなければいけなくなる場合があります。
株を持つ割合(持株比率)が変わると、会社の大事な決定、たとえば役員の選任や定款の変更、会社の合併などに対する発言力や決定権の強さが変わります。
そのため持ち株比率によっては、取締役の考えたように物事が進まなくなってしまう可能性がでてきてしまうんですよ。」
かなえ:「会社にとってとても重要なことなんですね。
株式を新しく発行したり、譲渡したりする際には慎重な判断をしなければならないのが良く分かりました。」
事業年度|決め方と税務上のポイント
いち:「最後に事業年度を決めましょうか。
事業年度は自由に定められますので、一年のうち何月から何月までにしても問題ありません。」
かなえ:「事業年度は4月から3月までじゃないといけないんじゃないかと思ってました。
決める上で考えた方がいいことはありますか?」
いち:「新規設立法人には、2事業年度分の消費税が免除される特例措置があるんですが、これを最大限に活用することです。
事業年度の長さや区切り方で、免除期間が短くなることがありますから。」
かなえ:「事業年度を4月から3月に設定したとして…、7月に事業を始めたら3か月分の免除期間が無駄になるということでしょうか?」
いち:「はい、その通りです。
他には、税金の申告は決算月の2か月後が期限ですから、繁忙期が想定できる事業であれば、ぶつからないようにすることも一つの考えです。」
かなえ:「事業年度を4月1日から3月31日にしている企業が多いような気がしますけど何か理由があるんですか?」
いち:「会社によるでしょうが、事業年度を4月1日から3月31日にしているのはいくつかの合理的な理由があるんだと思います。
たとえば、国の会計年度や多くの他企業と同じで同期しやすいこと、学校と同じなので新卒採用のしやすさなどが考えられます。」
かなえ:「確かにそうですね…、慣れ親しんでもいますし、私も4月スタート3月決算にしようかな。」
発起人の決定・会社の基本事項の決定まとめ
いち:「すでに決まっていたことも多かったですし、今回は簡単だったんじゃありませんか?」
かなえ:「考える項目はたくさんありましたけど、一つ一つ理由を聞きながら決めていくと納得できますし、自分の会社がこれからできていくんだ、という気持ちがわいてきて楽しかったです。
会社の目的はあとで変更はできるとのことでしたけど、最初にちゃんと考えておいた方がいいんですよね、少し緊張しました。」
いち:「はい。会社の目的は、会社のルールブックである定款(ていかん)に記載するものなので、変更の際には手間のかかる定款変更の必要があるんです。
それに最初にしっかり決めておけば、その後の手続きや経営判断にも一貫性が出てきますよ。
ではこの次は定款を作成したいところですが…、その前に会社の印鑑を作成しておいた方がいいでしょう。
次回は、会社の印鑑の説明をします!」