金融機関に資本金の払い込みをする -ひとり会社設立編10-

登場人物紹介

いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った

資本金の払い込み

かなえ:「無事定款の認証が終わりました!」

いち:「大きなヤマを一つ越えましたね。
この辺りで資本金の払い込みをしたいのですが…、その前に資本金についてのおさらいをしておきましょうか。」

かなえ:「はい、お願いします!
いま一つ資本金についての理解が浅いので助かります。」

資本金とは?知っておくべき基礎知識

いち:「資本金は、会社が事業を始めるためのスタート資金です。
設立時に集めたお金を会社の基本の財産として記録することで、対外的にもちゃんとこの会社は運営できる力があります、という証明にもなります。

かなえ:「資本金の額は信用にもかかわる重要な要素なんですよね。」

いち:「その通りです。資本金の額は登記をされて一般公開されるので、取引先や金融機関が会社の信用度を判断する重要な材料にもなります。
ただし、資本金が多すぎると法人住民税の均等割が高くなったり、消費税の免税が受けられなくなるなど、税務面の影響もあるので注意が必要です。」

かなえ:「資本金は、会社の規模以上に多すぎても支障があるんですね。」

いち:「資本金の額は基本的には自由に決められるのですが、考えるべきことがいくつかあります。
たとえば、1円からでも会社は設立可能ですが、現実的に考えて当面の運転資金に耐えられる額に設定するのが一般的です。

また、資本金の一部は“資本準備金”として分けて計上することができます。

資本準備金とは?

かなえ:「資本準備金というのは初めて聞く用語ですね。」

いち:「資本準備金は、運営資金として使う意図は資本金とほぼ同じですが、資本金とは別に将来のために取っておくお金です。

登記をされないので、対外的な見え方には影響せず、税務上の柔軟性をもたせる目的で使われることがあります。
たとえば、資本金が1,000万円を超えると消費税の免税措置が使えなくなるので、初期段階では資本準備金として分けておく、というような使い方ができます。」

かなえ:「なるほど、資本準備金をうまく使うことで納税が有利になる工夫ができるんですか。
ならば、資金が潤沢な会社が納税を逃れるために…なんてこともありそうですね。」

いち:「いいところに気がつきましたね、でも資本準備金にも一定のルールがあるんです。
会社法では資本準備金の規定を、『資本金の2分の1を超えない金額について、資本準備金として資本金に計上しなくてよい』としています。
資本のある企業が免税目的で多額の資金を資本準備金に回す、ということができない仕組みがあるんですよ。」

資本金を払い込む口座

いち:「では、本題に入りましょう。
払い込みは、発起人自身の名義で開設された個人口座に行います。
発起人が複数の場合は代表者一名の口座にまとめて振り込みます。」

かなえ:「今私が使っている個人口座をそのまま利用してもいいんですか?」

いち:「既存の個人口座を使用することもできるのですが、通帳にプライベートなお金の出入りがあると資本金の払い込みが明確に証明しにくくなったり、内容によっては会社の運営資金の私的流用を疑われるリスクがあります。
なので資本金の払い込みの際には、新規で個人口座を開設するのがおすすめです。」

かなえ:「それは困りますね。手間が少し減るかなってつい思ってしまいました。」

いち:「そして、会社設立後には法人口座を開設し、そこへ資本金を移すことになります。
万が一、何らかの理由で法人口座がすぐに開設できない場合は、当面の間個人口座を一時的に会社の口座として使用することも可能です。」

払い込みがあったことを証する書面の作り方

いち:「資本金の払い込みを終えたら、払い込みがあったことを証する書面を作成します。
払い込みがあったことを証する書面は、登記の必要種類の一つです。
決まったテンプレートはありませんので、下記サンプルのように作ってください。」

払い込みがあったことを証する書面サンプル

いち:「登記書類として完成させるにはもうひと手間が必要です。
通帳のコピーを取って以下のように一つにまとめます。
また、ネット銀行の通帳レス型口座を利用する場合は、Web明細を印刷して代用しましょう。」

綴じ方

①払い込みがあったことを証する書面

②通帳の表紙と裏表紙のコピー

③口座番号等が記載されている表紙の裏のページのコピー

④払い込みをした金額が記載されたページのコピー

以上4枚を重ね、左側をホチキスで綴じます。

かなえ:「通帳のコピーを含めて登記書類となるんですね。
テンプレートがないのは不安なので…、見本があると助かります。」

いち:「テンプレートがあれば決めたことを当てはめていけばいいですからね。
テンプレートがない書類があることが、会社設立の手続きを難しくしている一つかもしれません。
うまく利用していただければ私も嬉しいです!

さて、次回はいよいよ会社設立においての最後の大仕事になります。
商業登記書類の作成をしましょう!」

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