雇用までの大まかな流れ「経営者が押さえる5つのステップ」 -はじめての雇用編2-

登場人物紹介

いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢をかなえたWEBデザイン会社経営の女性 ー会社設立編はこちら

人を雇うときの基本ステップと準備

かなえ:「前回のお話で、雇用の責任やリスク、費用を聞いて、人を雇う前にはしっかりとした準備が必要なんだなとよく分かりました。
今回は、人を雇うまでの一連の手順を教えていただけるんでしたね。」

いち:「はい、今回は実際に人を雇う際の全体の流れをステップごとに見ていきましょう!
全体像を知っておくと、やらなければならないことが明確になってきますよ。」

雇用の5つのステップ

いち:「それでは、各stepを順を追って説明していきましょう。
今回はstep1 労働条件の決定と、step2 従業員の募集・選定を説明します。」

Step1:雇用前に必要な“労働条件”の整理

いち:「まずは労働条件をしっかり決めておきましょう。
その際には、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできる、労働条件通知書を活用すると漏れがなくて安心です。

労働条件通知書は、労働基準法で従業員に明示する義務のある重要な書類ですので、改めて作る手間も省けます。
労働条件の虚偽表示や差別的表現は、職業安定法に違反しますので気を付けてください。」

職業安定法とは(1947年11月施行)

求人募集や採用に関するルールを定めた法律で、求職者の適正な雇用機会を守ることを目的としています。
虚偽の求人広告や差別的な表現(性別・年齢・家族構成など)は禁止されており、公正な採用活動を企業に義務づけています。ハローワークや求人サイトもこの法律に基づいて運営されています。

労働条件通知書に必ず書く項目|絶対的明示事項

いち:「労働条件通知書には必ず明記しなければならない、以下の項目があります。」

項目内容
1 労働契約の期間契約が有期の場合は期間や更新の有無、更新基準を記載
2 就業の場所・業務の内容どこで・どんな仕事をするのか明記
3 始業・終業の時刻、休憩・休日等所定労働時間、休憩時間、休日、交替制の有無など
4 賃金の決定・支払い方法基本給、手当、支給日、締日、控除など
5 退職に関する事項解雇の事由や手続き、自己都合退職の扱いなど

必要に応じて記載する項目|相対的明示事項

いち:「以下は必要に応じて記載をする相対的明示事項です。」

項目内容
昇給昇給の有無や基準、実施時期
退職手当支給条件、計算方法など
賞与支給の有無、支給時期や計算基準
就業規則適用される就業規則の有無と名称
表彰・制裁懲戒規定や表彰制度など
安全衛生等災害補償、業務外の疾病補償、安全衛生の取組など

※2024年法改正で追加された記載ルール

項目内容対象
就業場所・業務の変更範囲転勤や異動の可能性がある範囲を記載すべての労働者
有期契約の更新上限更新の有無、更新回数、通算契約期間など有期契約労働者
無期転換申込機会と条件無期転換の申込時期と転換後の労働条件有期契約労働者
労働条件通知書サンプル(表面)
(裏面)

かなえ:「労働条件は、後々のトラブルを避けるためにもしっかりと考えないといけませんね。」

いち:「その通りです。トラブル回避のためにもしっかりと決めておきましょう。」

時間外労働に必要な“36(サブロク)協定”

いち:「法定労働時間は、原則一日8時間・週40時間までなのは一般的に知られたルールですよね。
また、時間外労働の上限は、原則月45時間、年360時間までになっています。

ですが、実際にはこれを超える労働時間を設定することも可能です。
ただし、その際には従業員と書面で合意し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
この規定を、36(サブロク)協定といいます。」

かなえ:「労働時間の上限が法律で決められているのに、会社が36協定を結んで届け出れば残業をさせられるんですか?
従業員側からしたら断りづらそうで心配ですね。」

いち:「それには少し誤解があって、36協定は、経営者が好き勝手に残業させる“免罪符”では決してありません。

労働基準法36条に基づいて、“労働者代表と会社が合意した”上限時間や条件を明示し、
その範囲内でだけ時間外労働を認める仕組み
です。
なので、たとえ協定を結んでも上限を超えて労働をさせれば、やはり違法になります。
労使双方で内容を確認し、届け出ることで労働者を守る役割があるんですよ。

しかし…、かなえさんが言ったような面も否定できません。
近年改正されたとはいえ、36協定の労働時間の上限はまだまだ議論の余地があるといえるでしょう。」

募集方法と面接のポイント

求人広告は何を選んだらいいの?

かなえ:「従業員の募集は、何を参考にして考えたらいいんでしょうか?

いち:「従業員を募集する方法には、ハローワーク、民間の求人サイト、SNS、知人からの紹介などがあります。
最近は専門職に特化した求人サイトも多く、特定スキルを持つ人材を探す場合にはこれらを活用するのもおすすめです。」

かなえ:「うちのようなWEBビジネスをしている会社には専門職の求人サイトが向いているのかもしれませんね。
ハローワークは多くの人に求人が見られるイメージがありますけど、どうなんでしょう?」

いち:「ハローワークは掲載が無料で認知度が高く、地域密着の求人を中心に幅広く利用されているため、今も有力な選択肢の一つです。
ただし、求人件数の統計は民間サイトと単純比較できず、近年は企業の利用件数や紹介件数が減少傾向にあるとの調査もあります。

現在では求人サイトやSNSなど複数の手段を併用するのが一般的になっているので、もし気になるのであればかなえさんも併用してみたらいかがでしょう。」

採用面接で気をつけること

いち:「次に、面接の際の注意点をお話ししておきましょう。
採用面接では、応募者の適性や能力に直接関係のない質問は原則として避ける必要があります。
厚生労働省のガイドライン(公正な採用選考)でも、採否に無関係な事項を尋ねることは不公正な選考につながると示されています。」

かなえ:「性別や家族のこと、結婚や出産の予定なんかは聞かない方がいいって聞いたことがあります。」

いち:「はい。たとえば、配偶者の有無や結婚・出産の予定宗教や支持政党家族の介護や扶養状況などは、応募者の仕事能力とは無関係であり、質問すると差別やプライバシー侵害と受け取られるおそれがあります。」

かなえ:「うっかり聞いてしまいそうな内容ですね。面接官がルールを知らなくて、SNSで炎上しているケースも見かけます。」

いち:「そうですね。会社が面接官への事前教育や指導を行う義務は法律上明記されていませんが、トラブルを避けるためにも必要なことだと思います。

ガイドラインに沿った対応を徹底しないと、男女雇用機会均等法などの趣旨に反する採用差別と指摘され、企業の信頼や評判を大きく損なう危険があります。

採用合否の判断のコツは?

かなえ:「私は会社に勤めていた時に面接官をした経験があるんですが、つい印象で人を判断しがちなので…面接にあまり自身がないんです。」

いち:「大切なのは、多面的な質問と基準の明確化です。
先入観や思い込みで決めつけずに、“採用基準に沿って客観的に判断”すること。
個人的な感覚に頼らず、会社が求める能力とマッチするかを軸に判断するといいですよ。」

かなえ:「分かりました。多面的な質問と基準の明確化、これを第一に考えてみます。」

いち:「では次回は、step3の労働契約の締結について、より具体的に解説していきましょう!」

かなえ:「はい、よろしくお願いします!」

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