会社設立とはどういうもの?【前編】|会社の種類 -ひとり会社設立編3-

登場人物紹介

いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った

※文中の赤文字は専門用語です

会社の種類と特徴をわかりやすく比較

会社の主な種類とそれぞれの特徴

いち:「前回は個人事業についてお話をしました。
今回は会社設立の説明です。

会社設立のお話は長くなりますので、前後編に分けてお話しをします。

会社には様々な種類があって、それぞれに特徴があります。
会社設立を考える前提として押さえておいた方がいいことですので、まずは前編として、会社の種類から説明をしたいと思います。」

株式会社とは?|基本的な特徴

株式会社は、株式を発行することで出資を募り、資金調達して運営される企業形態です。

株式には通常は議決権があり、株主は株主総会を通じて経営方針に関与できます。

さらに株式を上場すれば、広く一般の投資家から資金を集めることが可能となり、融資に頼らずに事業を大きく発展させることも期待できるようになります。

有限会社とは?|現状と特例有限会社について

有限会社は2025年現在でもたまに見かけますが、2006年5月1日の会社法施行時に制度が廃止され、今は新たに有限会社をつくることはできません。

現在ある有限会社は会社法施行以前に設立されたもので、法律上は特例有限会社といいます。

いくつかの株式会社の義務がない簡易な株式会社として、株式会社とほぼ同じ扱いになっています。

持分会社|合名会社・合資会社・合同会社の特徴

持分会社とは、合名会社、合資会社、合同会社、三つの会社の総称です。

持分会社のメリットは、会社の持ち主と経営者が同じなので意思を反映しやすくスムーズな経営ができるということ、株式会社のような細かな設立要件がないので設立が比較的容易な上に設立費用が安いということです。

合同会社はアメリカのLLC(Limited Liability Company)がモデルになっていますので日本版LLCとも呼ばれています。

合同会社(LLC)のメリットと実例

いち: 「2006年の会社法改正では、会社制度の複雑さを解消し、より柔軟で透明性の高い企業活動を促進するために有限会社制度が廃止され、株式会社持分会社に整理されました。

実はApple JapanやAmazon Japanなど、誰もが知る巨大企業の日本法人も合同会社として設立されているんですよ。※2025年現在

合同会社は、株式会社に比べて柔軟な運営ができて、設立コストも安く、株主総会などの形式的な手続が不要です。
また、資金調達の必要がないグローバル企業にとっては、自由度やコスト面のメリットが大きい形態です。
つまり、あえて株式会社ではなく、合同会社を選ぶ明らかな理由があるんです。」

かなえ:「企業によっては合同会社の方がメリットがある、ってことなんですね。」

いち:「余談ですが、海外の大企業が合同会社をつくる意味は、先に述べた特徴以外にもあります。

グローバル企業が日本法人を、販売ではなく“業務委託先”という位置付けにすることで、実質的に日本での課税(法人税等)を最小限に抑えている実態があるんです。

もちろんこれは違法ではなく法的には許容されたスキームなのですが、日本国内で販売をしながら、その利益の多くが海外本社に流れていく構図があるんです。
そしてこの図式は合同会社だと株式会社よりも、自社にとって都合のいい税務処理ができる構造にしやすいんですよ。」

責任範囲とは?|無限責任と有限責任の違い

かなえ:「なるほど、合同会社に関しての理解が深まりました。
それに、身近な商品やサービスにも会社の仕組みが影響していると思うと、会社についてもっと知りたくなりますね。

ところで持分会社って3つあるんですね…それぞれの違いはなんですか?」」

いち: 「大きな違いは出資者の責任の範囲です。
ちなみにここでの社員とは会社法上の用語で、会社の従業員ではなくて“出資者のこと”をいいます。」

持分会社名社員構成
合名会社無限責任社員
合資会社無限責任社員+有限責任社員
合同会社有限責任社員

かなえ: 「この場合の責任とはどんな意味になるんですか?」

いち: 「無限責任社員は、会社の借金や損失を会社の資産だけで返済できないときに、自分の財産を使ってでも返さなければならないんです。
この部分は個人事業と同じですが、事業が失敗したときに個人で自己破産をする可能性があるということでもあります。

一方、有限責任社員は出資した範囲内での返済で済みます。
有限責任社員で構成されている合同会社や株式会社は、個人で大きな負債をかかえることがありませんので、失敗をしても再挑戦しやすい仕組みだと言われています。」

かなえ: 「なるほど、負債のリスクが有限なのは安心材料になりますね。
それにしても有限責任で始められるのならわざわざ無限責任の会社を選ぶ必要はないようにも思えますね。」

いち: 「はい、実際に持分会社の約90%が合同会社なんです。

でもややこしいのですが、有限責任といっても、金融機関から資金を借りるときには、経営者が会社の連帯保証人になることを求められることが一般的です。

その場合には会社の借金ではなく個人の借金になるわけですから、当然支払い義務が生じるという事になります。
連帯保証契約は、本人と連帯保証人のどちらに請求してもいいわけですから。」

かなえ:「そうそう甘い話はないってことですね。」

株式会社と合同会社、どちらを選ぶべき?

いち:「会社の形態の説明は以上ですが、何か質問はありますか?」

かなえ:「わたしは近い将来の事業の拡大を考えているので、会社設立に気持ちが傾いています。
信用度が個人事業よりも高いのも魅力ですし。

特に株式会社と合同会社が気になるんですが…
信用を取るならば株式会社、設立費用の安さや手続きの容易さ、会社法に縛られない柔軟な経営を考えるなら合同会社という理解で合ってますか?」

いち: 「はい、そう考えていいと思います。
さらに付け加えると、一般的に株式会社は持分会社に比べて融資が受けやすいといわれています。

将来の事業拡大を想定しているならば比較的資金の融通がつきやすい株式会社の方が都合がいいのかもしれません。」

主要会社形態の比較一覧表|信用度や融資の受けやすさなど

いち:「ここで一度お話ししてきた内容をまとめておきましょう。」

会社形態設立費用信用度経営の柔軟性出資者の責任融資の受けやすさ
株式会社やや高い高い低め有限
合同会社安い高い高い有限
合名会社安い低い高い無限
合資会社安い低い高い無限

かなえ: 「一人で事業を始めるんですから、経営の柔軟性はそんなに気にする必要がありませんし、設立時の資金は用意ができています。
会社を設立するのなら株式会社の方が私に合っていそうですね…」

いち:「では、次回からは株式会社に絞って詳しく説明をしていきましょうか?」

かなえ:「はい、よろしくお願いします。」

【会社設立とはどういうもの?-後編-に続く】

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