登場人物紹介
いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った
※文中の赤文字は専門用語です
株式会社と個人事業に課せられる税金の違い
法人税と個人の所得税の基本的な違い
いち:「今回は、個人事業と株式会社に課せられる税金について比較をしてみましょう。
税金はややこしいところが多いので分からなければ質問してくださいね!」
かなえ:「確かに税金関係は難しそうです…何とか理解できるように頑張ります!」
いち:「まずは税金の基本的なお話ししましょう。
法人にかかる主な税金は、国税の法人税、地方税の法人事業税と法人住民税です。
一方個人事業主には、所得税、事業税、住民税が課されます。」
累進課税と一定税率の違いとは?
いち:「ここでひとつポイントになるのは、この二つは税率の構造が異なるということです。
個人の所得税は累進課税といって、5%から始まり、所得が増えれば増えるほど税率が上がる仕組みです。
一方で法人税は、課税所得(課税所得 = 売上 - 経費 - 基礎控除ほか各種控除)800万円以下は15%、それ以上は23.2%と、ある程度一定の税率が適用されます。※税率は2025年現在」
かなえ:「なるほど…つまり、売り上げが少ないうちは個人の方が税率が低くなるってことなんですね?」
いち:「はい、その通りです。
しかも株式会社には、赤字で利益が出ていなくても毎年最低7万円の法人住民税(均等割)が課せられるので、立ち上げ初期で売上が少ないうちは個人事業の方が税負担が軽いケースが多いんです。」
どのくらいの売り上げがあれば株式会社にした方がいいの?
かなえ:「じゃあ、どのくらいの売り上げがあれば株式会社にした方がいいということになるんでしょうか?」
いち:「そこは気になりますよね。
では下記の速算表を見てみましょう。
個人事業者の所得税と、株式会社の法人税の比較です。
黄色い印をつけたところをみると、課税所得330万円から税率が逆転しているのが分かるでしょう?」

※右記は税率・控除額

かなえ:「はい、個人事業は税率20%で、株式会社は15%なので、課税所得330万円で税率が逆転しています。
じゃあ…、課税所得が330万円以上あったら株式会社にした方がいいということになるんでしょうか?」
いち:「実は税金の構造は複雑でそんなにシンプルでもないんです。
では実際に計算をしてみましょう。」
課税所得330万円の税金比較(個人事業 vs 株式会社)
個人事業者
【所得税】課税所得330万円 × 税率20% − 控除額427,500円 → 約23万円
【住民税】約33万円
【事業税】約2万円
合計 約58万円
株式会社
【法人税】課税所得330万円 × 税率15% → 約49.5万円
【法人住民税】約12万円
【法人事業税】約12万円
合計 約73万円
かなえ:「課税所得330万円では個人事業の方がまだ15万円も安いんですね。」
いち:「この例のように、330万円くらいの課税所得では、まだまだ個人事業の方が安くなることが多いんですよ。
では次に課税所得が600万円のケースを見てみましょうか。」
課税所得600万円の税金比較(個人事業 vs 株式会社)
個人事業
【所得税】 330万円 × 税率20% − 控除額427,500円 → 約57.25万円
【住民税】 60万円
【事業税】 30万円
合計 約147.25万円
株式会社
【法人税】 600万円 × 税率15%(年800万円以下の法人のため)→ 90万円
【法人住民税】 約13万円(均等割含む)
【法人事業税】 30万円
合計 約133万円
法人化の税負担の目安とは?
かなえ:「課税所得が600万円だと個人事業よりも株式会社の方が税金が安くなりました!」
いち:「はい、そうなんです。
課税取得が600万円を超えてくると、株式会社にしたことによる節税効果がでてくるんです。
税制的なメリットが明確になってきますので、個人事業主が法人化を考える一つの目安にもなると思いますよ。」
かなえ:「なるほど、でも課税所得600万円が株式会社化の目安だとかなりの売り上げを出さないと…
株式会社設立を選ぶのは私にはハードルが高いのかもしれませんね…」
役員報酬の仕組みと節税効果
役員報酬を経費にできるメリット
いち:「いえいえ、まだまだ結論を出すのは早いです。
会社化するにあたっては他にも考慮すべきポイントがあります。
その中の一つとして、役員報酬(自分の給与)を経費にできる、というものがあります。」
かなえ:「経費にできるメリットは、経費が増えることで会社の利益が減ると利益に掛かってくる税金が減る、ということでしたよね。
役員報酬を経費にすることで課税所得を減らせるということなんですね。」
いち:「以前お話ししたことを覚えていてくださっていたんですね。
一か月以下の一定期間ごとに同額を支給する、いわゆる定期同額給与じゃないと認められない、などの一定の厳しいルールはありますが、株式会社にするとこの役員報酬を損金(経費)にできるので、課税所得を相当額抑えることができます。」
ひとり会社設立編1~4のまとめ
かなえ:「他に、個人事業か会社かを考える上で考慮する点はありますか?」
いち:「大切なのは他人と自分の事業は違う、ということです。
コスト面だけで一様に考えられるものでもありません。
自分の事業の方向性や事業の規模、将来の事や信用面も含めて、自分自身にあった判断をすることが大切ですね。」
かなえ:「今までお話をうかがってきて、メリットやデメリット、税金の理解が、個人事業か会社設立かを考える上で必要不可欠なのはよく分かりました。
でも結局はどちらが自分のビジネスにあっているか、なんですよね。」
いち:「その通りです。
早期の売り上げに不安があるようなら個人事業でスタートし、取引先が増えて、ある程度継続的な売り上げが見込めるようになったら、法人成りを検討するのもいいですし、
早期の売上が見込めたり、雇用を考えているのであれば、株式会社で始めて良い人材の応募や取引先を増やしやすい状況をつくるのも一つの方法だと思います。」
かなえ:「私は将来的な事業拡大を見込んでいますし、企業相手のお仕事も増やしていきたい気持ちがあります。
自ずと結論は出てくるのかもしれませんね…」
いち:「法人化をすると元に戻すのは容易ではありませんのでよく検討して結論を出してくださいね!」
かなえ:「ありがとうございます。
今までのお話で何が自分にとってのベストなのかをきちんと考えられるようになった気がします。
決まったらまた相談させてくださいね!」