登場人物紹介
いち
行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った
※文中の赤文字は専門用語です
定款ってなに?会社の憲法と呼ばれる理由
かなえ:「ていかんって読むんですね。
あまり聞きなれない言葉ですね。」
いち:「定款とは、会社を設立する際に会社の基本ルールや運営に関する様々な事項を記載した文書の事です。
いわば会社のルールブックです。
定款は会社の憲法と呼ばれることがあります。
憲法と同じようにルールから外れた運営はできず、また権力を限定するという趣旨がありますので、上手く言い当てている表現ですよね。
ちなみに定款は合同会社など持分会社設立の際にも必須ですし、NPO法人設立の際にも必ず作らなければなりません。」
かなえ:「それだけ重要なものなのですね。
どのように作ればいいんですか?」
定款の作り方
いち:「定款には大きく分けて3つの項目があります。
そして、それぞれの項目の中身を作っていくんです。」
1⃣絶対的記載事項
必ず記載しなければならない項目
2⃣相対的記載事項
記載がなければ効力を生じない項目
3⃣任意的記載事項
会社が自由に定められる項目
かなえ:「いかにも“会社の憲法”らしい難しそうな言葉が並んでいますね……」
いち:「実際に項目に書かなければいけない内容を個別に説明していきますね。」
1⃣ 絶対的記載事項|書かなければ会社設立できない!
①目的
②商号
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(資本金)
⑤発起人の氏名または名称及び住所
いち:「この5つが絶対的記載事項で、これが書かれていないと定款として認められず、会社設立ができません。
字面をみると難しそうですけれど、絶対的記載事項には見覚えがありませんか?」
かなえ:「はい、以前につくった会社の基本事項と同じです!
これならすぐにでも書けそうです。」
2⃣ 相対的記載事項|書かないと効力が生まれない
いち:「次は記載がなければ効力を生じない、相対的記載事項になります。」
①金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数
②株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
③株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
④株式会社の負担する設立に関する費用
⑤株式の譲渡制限
⑥取締役会、監査役等を置くことができる旨
⑦存続期間又は解散の事由
⑧公告方法
かなえ:「急に難易度が上がりましたね…
分かりやすく説明していただくと助かります。」
いち:「はい、できるだけ分かりやすく言い換えてみます。」
①現物出資をする人がいる場合、その人の名前、出資するものの内容と額、もらう株の数
②財産引受がある場合、その財産の内容と額、売る人の名前
③発起人が、特別にもらうお金や利益がある場合、その内容と誰がもらうのか
④設立のためにかかった費用を会社が負担する場合、その内訳
⑤株式に譲渡制限をつけるかどうか、その有無や内容
⑥取締役会や監査役などの機関を置けるようにするかどうか
⑦会社の存続期間や、解散の理由をあらかじめ決める場合はその内容
⑧会社の公告(お知らせ)の方法を、官報やウェブサイト等どこで行うか
かなえ:「かなり分かりやすくなりましたが、聞きなれない用語があります。
現物出資?財産引受?これは何ですか。」
いち:「出資は金銭以外でも可能なんです。
現物出資や財産引受は、会社に金銭以外の出資をするケースに使われます。」
かなえ:「今使っているPCを仕事でも使おうとしているんですが、これも定款に現物出資の記載が必要になるんでしょうか?」
いち:「ここがややこしいのですが、あくまで今使っているPCを会社の財産にした場合に現物出資の記載が必要になるという話です。
日常業務に使うだけなら記載の必要はありません。」
かなえ:「なるほど。
他に作成する上での注意点はありますか?」
いち:「①から④は記載をしないと効力が発生しないものなので、思い当たるものは全て記載をしておきましょう。
また、⑤の株式への譲渡制限は特に重要です。
背景として、ベンチャー企業や非公開会社では、経営権が意図せず第三者に渡るリスクがあります。
譲渡制限を設けていないと、株主が自由に株式を他人に売却できてしまい、経営の安定性を損なうおそれがあるからです。」
かなえ:「なるほど、株式の譲渡制限は必ずつけておいた方がいいんですね。」
いち:「はい、その方がいいと思います。
最後に⑧の公示方法は官報が一般的ですが、現在は自社のウェブサイトを使うケースも増えています。
それぞれの特徴をお話ししましょう。
官報は全国一律の公的媒体で信頼性が高い反面、掲載には費用がかかります。
一方、ウェブサイト公告は掲載コストは安いのですが、初期投資や定款への明記、継続的な掲載義務といった負担もあります。
どちらにもメリット・デメリットがありますので、自社の方針や体制に合わせて選ぶといいですよ。」
3⃣ 任意的記載事項|書けば効力が生まれる“会社独自ルール”
いち:「最後に任意的記載事項をお話しします。」
法律上、定款に書かなくてもよいが、会社の運営を円滑にするために定めておくことができる事項
いち:「任意的記載事項は、書いても書かなくても法的には問題はありません。
ただし定款に記載すれば法的効力を持つので、あらかじめ記載しておくことで将来的なトラブル防止やルールの明確化に役立ちます。
たとえば、前々回の会社の基本事項でかなえさんが決めた、“事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとする”、これは任意的記載事項に記載することができます。」
かなえ:「そうなんですね。
私のような“小さな会社に合ったおすすめの記載例”ってありますか?」
いち:「そうですね、この三つがおすすめです。」
1. 株式の相続時の取り扱い(例:死亡時は会社が優先買取できる)
2. 取締役の選任ルール(例:株主の議決権の過半数で決定)
3. 日々の業務の中で誰に対しても明確にしておきたいようなものがあれば、定款に入れておく(業務の範囲など)
かなえ:「確かに私がいなくなった後のことをちゃんと決めておけば、余計なトラブルを避けられそうですね……
“任意的記載事項を記載するうえでの注意点”はありますか?」
いち:「定款に記載した場合は、原則としてそのルールに従う義務がありますので、あまり細かく決めすぎていると逆に足かせになることがあります。
変更するには、株主総会の特別決議などの正式な手続きが必要になるため、書きすぎには注意をしましょう。」
各“記載事項”の比較一覧
分類 | 意味 | 記載しないとどうなる? | 主な記載例 |
---|---|---|---|
絶対的記載事項 | 法律上、必ず記載が必要な項目 | 定款として無効 → 会社設立できない | ・目的 ・商号 ・本店所在地 ・出資額(資本金) ・発起人の氏名・住所 |
相対的記載事項 | 記載しないとその効力が生じない項目 | 記載がなければ、定めたことにならない | ・現物出資 ・財産引受 ・発起人の報酬など ・設立費用 ・株式譲渡制限 ・公告方法など |
任意的記載事項 | 記載してもしなくてもいいが、記載すれば効力が生じる | 記載しなければ通常通り運営される | ・事業年度の開始・終了 ・株式相続時の取り扱い ・取締役の選任方法など |
定款の製本のしかたと契印とは?
いち:「各項目の内容を決めたらA4用紙に記載します。
書き終えたら左端をホチキスでまとめて各ページに契印を押して完成です。
見栄えをよくするために表紙を作ったり、製本テープを貼ってみるのもおすすめです。
またページ数が多くてホチキスで止められない場合は、ひも綴じにしても問題はありません。」
かなえ:「契印というのは初めて聞きます。」
いち:「契印とは、ホチキス止めして開いたページの境目、左ページの右端と右ページの左端にまたがるように押す、書類が一連のものであることを証明する押印です。
ページの差し替えや改ざんを防ぐ意味合いがあります。
押印の半分ずつが各ページにかかっていればOKです。」
電子定款とは?|メリットと利用の注意点
いち:「先ほどは、紙の定款製本手順をお話ししましたが、定款は製本化せずPDFファイルで電子定款として申請することも可能です。
電子定款の最大のメリットは、定款の認証の際に必要となる収入印紙代4万円が不要になることです。
また定款は次回にお話しする、定款の認証が必要で、認証は原則持参がルールなのですが、電子定款だとオンライン申請が可能になります。」
かなえ:「安くて手間が省けるんですね。
それならば申請は電子定款一択でいいんじゃありませんか?」
いち:「そう考える気持ちは分かります。
実状も現在は約80%の会社設立で電子定款が利用されているといわれています。
ただし電子定款を自分で作成するには、専用ソフトの導入やマイナンバーカード対応のICカードリーダーの購入などの設備投資が必要で、さらに一定の知識も求められますので、少し高めなハードルがあるんです。
なのになぜ電子定款が普及しているかというと、多くの人が設備を備えた行政書士などの専門家に依頼しているからなんです。
結果的にそれが電子定款の普及を後押ししている一因となっているんですね。」
定款を守らないとどうなる?|違反時のリスク
かなえ:「定款に反した場合には罰則があるんですか?」
いち:「定款を守らない場合の罰則はないんですが、取締役が定款を守らなかった結果として起きたこと、たとえば会社に損害を与えることになったようなケースには取締役個人に損害賠償責任が生じる可能性があります。
さらには取引先の信頼を損なってビジネス上不利益を被るようなこともあるかもしれませんね。
また、かなえさんのお仕事とは違う業種ですが、建設業や宅建業などの許認可業務は、定款内容が許認可の審査対象となる業種になっていて、定款違反が許認可取消しや更新不可の要因になることもあるんですよ。」
かなえ:「なるほど、やっぱり慎重に進めるに越したことはありませんね。」
定款作成はプロに頼る選択も
いち:「会社設立の中で一番の難関がこの定款の作成だと思います。
難しいと思ったら専門家を頼ることも考えた方がいいでしょう。」
かなえ:「そうですね、やりごたえがありそうです。
でも何とか頑張って作ってみます。」
いち:「これでも今回の定款の内容は、ひとり会社設立用のシンプルなものなんですよ。
定款は、複数人いたり取締役会等の会社の機関を設立がすると、必要な記載内容が増えてどんどん複雑になっていくんです。」
かなえ:「え!この内容でですか?
これ以上難しくなったらさすがに手に余りそう…」
いち:「定款は作った後に認証をしてもらう必要があります。
次回は定款の認証についての説明をしましょう!」