はじめての雇用・雇用編Ⅰ

登場人物紹介
 
かなえさん
WEBデザイン事務所の経営者。
両親がふたば行政書士事務所に相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合い会社設立を相談。
起業の夢をかなえました。

いち
ふたば行政書士事務所所長の行政書士。

※文中の赤字は用語です

かなえさんの創業その後

いち

こんにちは、かなえさん。
会社の設立からしばらく経ちましたが事業の状況はいかがですか?

かなえ

おかげさまで順調です。
最近は自社サイトや紹介の仕事が増えてきているんですよ!

いち:「うまくいっているようで何よりです。
もし何か困っていることがあったら気軽に相談してくださいね!

かなえ:「早速なんですが相談したいことがあるんです。
一人では手が回らなくなってきたのでそろそろ人を雇おうと思っているんですよ。」

いち:「仕事が増えてきたのならそろそろ考える時期ですね。」

かなえ:「でも雇う側になったことがないので自信がないというか…会社がうまく回らなくなったときに私だけの問題じゃなくなるわけでしょう?」

いち:「雇用のことを知ったら見えてくるものがあるかもしれません。
今回は雇用についてのお話しをしましょうか?」

かなえ:「ぜひよろしくお願いします!」

人を雇う前に考えること

かなえ:「人を雇う前の心がまえはありますか?」

いち:「人を雇うことには大きな責任が伴うということをよく考えたいです。
具体的な行動としては従業員の方が働きやすい環境を整えていくということ。
例えば十分な生活を送ることができる給与や能力を発揮してもらう為の育成、人事評価などの労務管理です。
公平で働きやすい環境づくりは従業員のためだけではなく、巡って自社の利益につながることにもなります。」

かなえ:「私も人を雇うことの責任は理解しているつもりですが…実際に行動に移すとなると考えることがたくさんありますね。」

いち:「あとは法律知識も必要だと思います。
例えばこんな法律です。

法律名趣旨
労働基準法労働者の基本的な労働条件を保障し、働きやすい環境を整えること
男女雇用機会均等法男女の平等な雇用機会と待遇を確保し、性別に関わらず公平な職場環境を実現すること
雇用対策法労働者の安定した雇用と職業生活の向上を図り、経済・社会の発展と完全雇用の実現を目指す
個人情報保護法個人情報の適正な取り扱いを確保し、個人の権利利益を保護すること
マイナンバー法行政の効率化と公平・公正な社会の実現を図るために、国民に固有の番号を付与して情報を一元管理することと国民の利便性の向上

かなえ:「法律を学ぶのは少し自信がありませんので…法律関係だけは専門家に任せるというのはどうでしょうか?」

いち:「ケースバイケースだと思いますが、すべてを任せるのは良くないかもしてませんね。
労働条件を決めたり、実際に従業員と関わっていくのは経営者ですから法律を知っておくことは重要だと思います。
それにある程度の知識があって法律家の意見を聞くのと無くて聞くのとでは違うと思いませんか?」

かなえ:「確かにそうですね…これは頑張らないといけませんね!」

いち:「先に挙げた法律の中でも特に気を付けたいのは会社で預かることになる従業員のマイナンバーの管理です。
マイナンバーは特定個人情報といって、一般的な個人情報とは一線を画した厳格な基準での管理や使用を国から求められています。
違反した場合には最高懲役4年または200万円以下の罰金と重い罰則があります。」

かなえ:「結構な罰があるんですね…、これは分からなかったでは済まされませんね。」

いち:「知識がないばかりに思わぬ法律違反をしてしまって罰を受けることになってしまったり、労使間トラブルが起きたりして会社の信用を落としてしまうのはもったいないですよね。」

雇用のリスク

かなえ:「人を雇えば仕事が円滑に進むようになって売り上げも伸びていく、とつい考えてしまいますが…多分リスクもありますよね?」

いち:「確かに雇用にはリスクもあります。
小規模な会社は人材の質がより重要になってきますが、日本では期待したほどの人材じゃなかった場合でも解雇をするのは容易ではありません。
解雇をしたくてもいくつかある厳しい要件に該当しなければ不当解雇となってしまう可能性があります。
訴訟沙汰になって不当解雇と認められてしまうと数百万円、またはそれ以上の支払いを命じられることもあるんですよ。」

かなえ:「会社がなくなりかねない話ですね…
日本もアメリカのように解雇をしやすくした方がいいという経営者の投稿をSNSでよく見かけるようになりましたね。」

いち:「そもそもスペシャリストが求められるアメリカと会社での総合的な能力が求められる日本では働き方自体に違いがあるので、アメリカのようなアングロサクソン型雇用は日本に合わないという見解もありますね。
再雇用のされやすさにも大きな違いがありますし同じようには考えない方がいいんじゃないかと思います。」

かなえ:「スペシャリストはどこへ行っても同じ仕事ができるから転職しやすいということなんでしょうか。
逆にいうとスペシャリストになれなければお給料の高い仕事には付けないということにもなりそうですね。」

いち:「そうですね、それは経済格差の大きな要素にもなるでしょうし、いいことばかりではないでしょうね。」

かなえ:「解雇ができないことが日本では長らく賃金が上がっていない理由だとも言われますね。」

いち:「企業は限られた資金の中で給与を支給しなければならないので確かにそんな面もあるでしょう。
しかしデフレが続いて諸外国に比べて経済規模がいつまでも拡大しないというのが大きいのではないでしょうか。
また大企業に限られますが、2022年には内部留保が過去最高の554兆7,777億円になったというデータもあります。
必ずしも解雇ができないから給料が上がらない、というわけでもないと思いますよ。」

かなえ:「難しい問題ですね。
経営者、労働者双方にとってWINWINになる方法はないんでしょうか。」

いち:「ダイアモンドオンラインの記事でこんなノルディック型の雇用流動提案がありました。
日本には似たような仕組みがあるのでそれを発展させていくのも一つの手かもしれませんね。」

安心して失業し、生活費を公費や失業手当で支給されながら、政府支出による「スキルアップ・バウチャー」(リスキル・クーポン)などを活用し、再就職に有利なスキルを、キャリアカウンセリングに基づいて、自らで選択して身につけ、「賃金の高い成長産業」に転職する。

DIAMOND online

かなえ:「日本の職業訓練受講給付金の制度に似ていますね。
お金の心配なく転職出来て確かに日本に合っていそうです。」

いち:「何が最善かは皆で考え続けないといけないでしょうが、近い将来に企業と従業員がWINWINになるような仕組みができるといいですね。」

雇用の費用

いち:「人を雇った際に掛かってくる費用についてもお話ししましょう。
給与の支払いに加えて以下の費用が掛かってきます。」

会社負担割合
健康保険料50%
年金保険料50%
労働保険50%
労災保険100%

かなえ:「保険料等も含めて給与を考えないといけないんですね。」

いち:「そうですね。
加えて労働環境の整備に掛かる費用、研修費用、福利厚生に掛かる費用など見えにくい費用もあります。」

まとめ

かなえ:「人を一人雇うのもなかなか大変ですね。」

いち:「事業発展のために雇用をしたのに人を雇ったことで経営状況がひっ迫することになってしまっては本末転倒です。
本当に一人ではやっていけないのか?一部を外注や委託をすることができないのか?と考えてみることも必要なんでしょうね。」

かなえ:「確かにアウトソーシングって方法もありますね。
必要な時に必要な分だけ働いてもらうというのも魅力的です。」

いち:「しかし事業の拡大には雇用が不可欠になります。
また社員にしか任せられないような秘匿性の高い仕事や日常的な仕事もありますので自社の状況を考えて判断をしてみてくださいね!」

かなえ:「人を雇うのは思っていたよりも簡単ではないことが分かりました。
でも会社の将来を考えたらやっぱり雇用は必要だと思います。
事業所を任せられるレベルの人も育てたいですし。
これからも雇用についてのお話をきかせてもらえませんか?」

いち:「分かりました。
では次は雇用が完了するまでの大まかな流れをお話ししましょう!」