労働条件の決定、従業員の募集と面接・雇用編Ⅲ

雇用主が知っておきたい法律

いち

労働条件を決める前に読んでおきたい法律をご紹介します。

労働基準法

・労働条件の明示(賃金、労働時間、休日など)
・万人均等待遇
・男女同一労働同一賃金の原則
・強制労働の禁止
・公民権行使の保障
参照e-Gov法令検索

かなえ:「労働基準法は私でも知っていますけど…、改めてみてみると労働条件を定める上でかなり重要なことが書かれていますね。」

いち:「なじみのある労働法ですね。
違反した場合には雇用主に刑事罰が課せられることがありますので注意しましょう。」

労働契約法

・労働契約の成立と変更の労使合意義務
・安全配慮義務

参照e-Gov法令検索

いち:「労働契約法制定前の労働環境は、グローバル化や経済の変化により企業の競争環境が激化し、労使間の摩擦や労働紛争が増加していました。
そんな環境下で労働者と雇用主の間で適切な契約が締結されることが重要であるという認識が高まり、それに応じた法制度の整備が求められて成立した法律です。
労働契約の締結や変更は雇用主と従業員の双方の合意によってのみ成立するということが規定してあるのですが、その内容は従業員が理解できるように説明するのが義務になっています。
なし崩し的に ”こう決めたからいいよね?” ”はい” というやり取りだけでは義務を果たしたとはいえず不十分なんです。」

かなえ:「でもこれがうまくできていない会社ってたまに聞きますね。
労働契約法には労働基準法のような罰則はないんですか?」

いち:「少しややこしい話をすると、労働基準法は国が個人を不利益から守るために規定したもの(公法)で、労働契約法は個人と個人の約束事のルールを定めた法律(私法)です。
私法に刑事罰は適用されませんので罰則はないんです。」

かなえ:「だからうまく機能しないことがあるんでしょうか?
結構重要な内容のような気がしますけど…」

いち:「刑事罰がないからといって会社に何も不利益がないわけではないんですよ。
例えば労働契約法第5条を守らなかったことによって従業員がけがをした場合などには民事上の損害賠償責任を負う場合があります。
守っていない企業があるのは会社のコンプライアンス上の問題でしょうね。」

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法第5条

労働条件

いち:「労働条件は労働条件通知書厚生労働省HP)を使って決めていきましょう。
労働基準法の規定により労働条件通知書は従業員を雇う際に従業員に明示する義務があります。」

厚生労働省ウェブサイトより

36協定

いち:「法定労働時間が原則一日8時間、週40時間までというのは周知されていますが、法定労働時間を超える労働契約を結ぶことも可能です。
その場合はあらかじめ従業員と合意の上で書面を交わし、所轄の労働基準監督署に届ける決まりになっています。
当規定が労働基準法の第三六条にあることから36(サブロク)協定と呼ばれています。
36協定を結ぶ場合には先に述べた労働条件通知書に記入しておく必要があります。」

かなえ:「届け出だけで法律を守らなくて良くなるのなら、なんの為に労働基準法の規定があるのかが分からなくなりますね…」

いち:「この辺りが法律をややこしくする理由の一つなんだと思いますが…、週40時間を超える労働時間は原則違法なんです。
でも届け出を出すことによって罰則が免除される、というものなんです。」

36協定の改正

かなえ:「経営者としてはいいのかもしれませんが…雇われた経験もあるのでなんか複雑な気分です。
36協定が改定される予定はないんですか?」

いち:「実は最近改定されているんですよ。
働き方改革で大企業だけが対象になって行われていた賃金や休暇条件の改正が、2023年4月から中小企業にも適用されるようになりました。
時間外労働の上限も以下のように改善されています。」

原則時間外労働の上限が月45時間、年360時間

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)
・年720時間
・複数月平均一月80時間
・月100時間未満、時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉が限度
・月45時間超え年6回まで

違反した場合6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

従業員の募集

いち:「労働条件が決まったら、次は人材の募集ですね。
入社の過程なんですが、ハローワーク、WEB、紙媒体、紹介、一番多かったのは何だったと思いますか?(厚生労働省平成28年調べ)」

かなえ:「WEBじゃないでしょうか?
最近はテレビでもCMをよく見かけますし。」

いち:「WEBのCMって最近増えましたよね。
調査当時はWEBよりも求人誌やフリーペーパーなどの紙媒体の方が多かったのですが、大きな差はなかったので今はWEBが逆転しているんじゃないでしょうか。

でも正解は他を離してハローワークが一番なんです。
ハローワークは掲載料が掛かりませんしまず知らない人はいませんから多くの人に募集できるのが強みですね。」

かなえ:「確かにハローワークを知らない人はいませんね。
ハローワークとWEBの二本立てで募集をしたら良さそうです。」

いち:「専門職用のWEB求人もありますから考えてみてもいいかもしれませんね。」

面接

面接が一番頭を悩ませますね。
前職で面接官をしたことがあったんですが、入社後は良くも悪くも面接の印象と違うことの方が多かったです。
なかなか難しいんですよね…

いち:「なかなか見分けられるものではないですよね。
様々な考え方があると思いますので正解といえるものはありませんので、私見ですが…

面接では定型文的やり取り以外の話をちゃんとして会社がやってもらいたいことと希望者のできることが合っている、もしくは近いうちにできそう、ということを軸に考えます。
それには面接する側も会社が必要としている人材をちゃんと理解していないといけないですね。
人間性がよさそうだからという判断基準には疑問を持っています。
おっしゃったとおり短い時間で分かるものでありませんから。個人的な印象はあまり過信しないでもっと多面的な質問をして判断したほうがいいのではないでしょうか。
ましてや個人の好みで選ぶというのはナンセンスだと思います。
年齢に関してはどうしても先入観が付きまといますが、若ければ新しい会社に移りやすく退職しやすい、ベテランは経験による応用が利く等それぞれにメリットデメリットがあると思います。」

かなえ:「社員が面接官と経営者が面接官になるのとは何かと違いがありそうですね。
立場が変わって少し見え方が変わったような気がします。
私も軸になる基準を慎重に考えてみます。」

まとめ

かなえ:「面接は雇われていたときに比べてプレッシャーが段違いですね。」

いち:「物事は選択の連続ですから間違った選択をすることもあるでしょう。
間違った後にどううまく修正していくか、これも経営者にとって必要なスキルの一つなのかもしれませんね。」

かなえ:「ある意味開き直りも必要なのかもしれませんね!
思った人と違っても教育で変わっていってもらえればいい話ですし。」

いち:「それに思った人と違ったからこそのいい化学反応を会社にもたらしてくれる可能性もあるわけですから。」

かなえ:「そうですね!
そう考えると何だか楽しみになってきますね。」