登場人物紹介
いち
ふたば行政書士事務所所長の行政書士
かなえ
起業の夢があるWEBデザインの会社に勤める30代女性
両親が相続の相談をしたことがきっかけでいちと知り合った
※文中の赤文字は専門用語です
株式会社設立に必要な“商業登記”の流れと申請書類まとめ
商業登記とは?会社を設立するための最終ステップ
いち:「定款の認証が終わるといよいよ大詰めです。
今回は商業登記に必要な書類を用意しましょう!
登記書類を作って、法務局での登記申請が通ればいよいよ株式会社の設立となります。」
かなえ:「ついにここまで来ましたね、なんだかどきどきします。
でも、商業登記って言葉はよく聞きますけど、実際にはどういうものかちゃんと理解できていなくて…」
いち:「一般生活にはあまり関わってこないものですからね、皆さんそうだと思います。
ではまず商業登記についてお話しをしましょうか。
登記を管轄する法務局のウェブサイトにはこう記載されています。」
登記は、国が管理する登記簿に権利関係等を登録することにより、皆さまの大切な権利や財産を守るとともに、登記簿の内容を公開することなどを通じて取引の安全や円滑に資することを目的とする制度です。
法務局『登記の申請を御検討されている皆さまへ』
かなえ:「何だか難しくてピンときませんね。」
いち:「シンプルにいうと、商業登記というのは会社の名前や住所、代表者の氏名、資本金の額など、会社に関する重要な情報を法務局に登録して、誰でもが確認できるようにする制度のことなんです。
例えば取引先になる企業がこの会社、本当に信用していいのかな?って思ったとき、調べる手段がないと困るでしょう?」
かなえ:「はい、自分で一から調べるのはかなりの労力です。
調査の専門家ではありませんから正確な情報を得られるともは限りませんし。」
いち:「それが商業登記簿を見れば、ちゃんと設立されている会社かどうか確認できる、というわけなんです。
立場を変えてみれば、正式な手続きを経て設立された信頼に値する会社だと誰もに知らしめてくれる仕組みともいえますね。」
かなえ:「なるほど…商業登記っていうのは、会社の信頼性を証明する手段になっているんですね。」
“法人格”の意味
いち:「また株式会社を設立するには、登記をして法人格を得る必要があります。
そして法人格を得ると、会社が人として扱われるようになるんです。
つまり会社名義で銀行口座を作ったり、契約を結んだり、財産を持ったりできるようになるんですよ。」
かなえ:「会社が一人の人間みたいに行動できるってことなんですね!
なんだか会社の誕生って実感がわきますね。
登記によって会社に命が吹き込まれるような感じがして、すごく面白いです。」
いち:「代表取締役が契約を結ぶときも、自分の名前ではなく会社の名前で行うことになります。
ここにも個人事業主との大きな違いがありますね。」
登記情報は誰でも見られる
かなえ:「商業登記が会社を誰でもが確認できるようにする制度、ということは、登録された会社の情報は誰でも閲覧することが可能なんですよね?」
いち:「はい、誰でも近くの法務局で登記内容が確認できる登記事項証明書等の請求をすることが可能です。
登録が必要ではありますが、登記・供託オンライン申請システム“登記ねっと”でオンライン請求をすることもできますよ。」
登記申請で注意すべき点|更新義務と罰則
かなえ:「国が会社の内容を保証してくれていて、さらに公開してくれているなんていいシステムですね。」
いち:「そうですね、でも矛盾するようなのですが、登記には公信力がないといわれます。
“公信力がない”とは法律用語で、簡単に言うと登記されている内容が正しいとは限らないってことなんですよ。
登記されているからといって、法務局が内容の真偽までを保証しているわけではないんです。」
かなえ:「え?じゃあ登記の内容って信用できないんですか?」
いち:「信用できないというよりは、内容に間違いがあっても法務局は実地調査をしないので登記されたらそれで通ってしまうこともあるし、内容が変わっても更新されていなければ間違いがあるまま、ということです。
たとえば、代表取締役が変わったのに、変更登記をしなければ登記簿には前の人の名前が残っていることになりますよね。」
かなえ:「その会社を取引先に選んだ側としては困りますよね…」
いち:「困りますよね、なのでもし登記しなければいけないことが起きたのに、更新しなかった場合にはちゃんと罰則があるんです。
過料(刑罰ではない)というかたちで数万円から十数万円ほどが課せられる場合があります。
罰則も痛いですが、それよりも取引先への信頼を失ってしまう方がより痛手でしょう。
取引上のトラブルを避けるためにも、登記は提出した時点で完成ではなく、正しく保つ努力が必要、ということなんですよ。」
商業登記に必要な登記書類一覧
かなえ:「登記申請で必要になってくる書類ってどんなものがあるんですか?」
いち:「では順を追って説明しましょう。
商業登記申請の際に必要なものは以下になります。」
①株式会社設立登記申請書
テンプレートは法務局のウェブサイトからダウンロードできます。
②登録免許税納付用台紙
収入印紙を貼る台紙です。
株式会社設立登記申請書と一連でダウンロードできます。
登録免許税は資本金の0.7%(100円未満は切り捨て)ですが、最低金額が15万円と定められています。
③取締役の印鑑証明書
ひとり会社設立編7で作成した代表取締役の個人印の印鑑証明書を市町村区役所で取得します。
発起人と取締役を兼ねている場合でもそれぞれ1通づつ計2通必要になります。
④認証済みの定款
ひとり会社設立編8で作成して認証を受けた定款を利用します。
電子定款の場合は登記用PDFを登記・供託オンライン申請システムに添付し提出。
⑤払い込みを証する書面
ひとり会社設立編10で作成した書面を利用します。
⑥印鑑届出書
代表者印(実印)を法務局に登録するのに必要です。
ひとり会社設立編7参照。
テンプレートは法務局のウェブサイトからダウンロードできます。
⑦登記すべき事項
オンライン申請では入力し提出する場合がありますが、紙申請の場合は書面提出が必要です。
テンプレートは法務省のウェブサイトからダウンロードできます。
⑧発起人決定書
ひとり会社設立編6で作成した書面を利用します。
⑨取締役の就任承諾書
株式会社を設立する際や、取締役が新たに選任されたときに、その人物が、正式に取締役の職務を引き受けることを承諾します、と表明するための文書です。
参考:GVA法人登記
登記書類の内容を間違えたら?
かなえ:「私は資本金300万円ですから、0.7%の登録免許税で21,000円…ではなくて、
最低金額の15万円になるんですね。
登記書類の内容を間違えたらどうなるんですか?」
いち:「登記は間違えても法務局側で補正箇所を全て教えてくれて、そこを修正すれば大きな問題はないので過度な心配する必要はありません。
しかし会社設立手順の方に問題があると一旦取り下げ再提出ということもありますのでここは注意です。」
かなえ:「再提出の場合は事業の開始時期が遅れることにもなりそうですね。」
いち:「そうですね、融資や取引を約束している会社があるような場合には支障がありそうです。
それに申請した日が会社の誕生日になるので、創立記念日にこだわりがあるのであれば注意が必要です。
難しく思ったときは早めに登記の専門家である司法書士に依頼することも選択肢に入れた方がいいのかもしれませんね。
たとえば、発起人が複数いる場合や、取締役会などの会社機関を設置する場合、あるいは現物出資を行う場合は、必要書類が増えたり内容が複雑になったりします。」
かなえ:「申請日が会社の誕生日になるならぜひこだわりたいなあ…
私は登記も一人でやってみるつもりですけど…、時間と手間を考えると無理せず相談してみる選択肢もありかなって思いました。」